Ceramic moon Plastic stars

大体漫画とかアニメの感想を書いてます。こう、妄想が溢れそうになった時の受け皿としても活用。

そりゃねぇ…悔しいけどねぇ…。

ここからはネタバレありで「天気の子」を語ります。
未見の人は絶対にスクロールしない事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


悔しいけど、Kanonの栞ルートで声を上げて泣いた輩がツボらないわけがないんだ。

いやもう、事前にtwitterのTLから何となく話の流れは察しがついてたんですよ。
ヒロインが死んじゃうようなことになって、それを主人公が助けるとかそういう。奇跡が起きるとかどうとか。もう鉄板じゃないですか。

 

で。
そういう展開を劇場版でやられてどうなのかなぁとか思ってたわけです。これまたどこかで見かけましたが、Keyっぽいとか、エロゲのシナリオっぽいとか。そういうのって一般受けする? 逆に一般受けするようなものにしちゃったら、それは何か違わない?
そんな感じの捕らぬ狸の皮算用的不安。

 

ところが蓋を開けてみたら、もう冒頭から全力で今現在の価値観とか社会に噛みついてる。
主人公・帆高は家出少年で、労基法違反。ネカフェで寝泊まりし、水商売で働こうとする。挙句の果てには拳銃不法所持・使用ときた。
ヒロイン・陽菜も年齢詐称に保護者不在、危うく性的搾取手前。
細かいとこでは須賀さんは禁煙に失敗し煙草を吹かすとか。
もう、色んな団体やら良識派の皆さんから非難囂々じゃないでしょうかね。

 

でも、それが彼らなりの必死さなわけで。
大人の理屈だとか、社会のルールだとか、そういう事が帆高達を締め付けているから、そこから逃げ出して、自分の力で生きていきたかった。何のために自分が生きているのか知りたかった。

なりふり構わず大人を突き飛ばし、束縛をすり抜け、望みをかなえようとする姿は、まさに少年時代の冒険であり、ジュヴナイルが持ちうる熱さじゃないでしょうか。

だから、帆高が「一緒に逃げよう!」って言いだした時は、「えっ、マジか?! 考え甘くね?」って内心常識的なツッコミを入れたものの、3人が片寄せ合いながらラブホテルに逃げ込み、一時の安堵を得る感じに胸を熱くしたのです。

なんていうのかなぁ…古くて恐縮ですが、「ぼくらの七日間戦争」で少年達が廃工場で自分達だけで生きていこうとしたシーンがフラッシュバックしたんですよ。
子供は子供なりに真剣なんだ、っていう当たり前だけど忘れられる事。

 

それに対してふっつーに嫌味だなぁと感じる高井刑事。アレはもうほんとに帆高の邪魔をする存在なのですが、客観的に見て「普通の大人」の対応してるだけなんですよね。悪態つくとこ含めて。それと対立する時点で、帆高が今ある世界と対立してる、パンフの監督インタビューから取るなら、帆高が狂っているわけなのですが。
しかし、世界が、社会が正しいなんて子供には分からない。だから、子供にはそれに反発する必要がある。そこで本当に何が正しいのか、何を信じるべきなのかを悟らなきゃいけない。
…そういった対立を描いて、結果的に「世界を信じる」作品が多いのですが…。

 

須賀さんは「世界なんてすでに狂っている」と言いました。
つまり、それが彼の立ち位置。
狂っていく帆高の姿に涙し、止めようとし…でも、帆高の背を押した、「大人でありながら、世界に馴染めない」人。

須賀さんは最終的に世界の真実を知っています(少なくとも、陽菜が人柱にならなかったから雨が止まないという意識はあるはず)。
彼が、素っ気なくも「お前たちのせいじゃない」と言ってくれるのは、何かしら帆高達の救いになっているんではないでしょうか。

 

そう、最後の結末は決して開き直りなんかじゃない。
帆高は3年間(誰にも信じてもらえないのもあって)世界を変えてしまった事を思い悩んできた。だからこそ、冨美に謝る。許してもらえないと分かっていても。
陽菜も降りやまない雨の中、祈りを捧げるのでしょう。
大きな後悔を背負っていても、それでも笑って大丈夫と言える。それこそが「一人の人間として」の強さじゃないでしょうか(世界は大迷惑だろうけど)。

 

個人的には、須賀さんのすれた、それでいて少年の立場を捨てきれない感じが凄くツボ。
単純な子供の味方じゃなく、大人としての立場や求めるものがあって、それでもくすぶるものがあって酔い潰れてしまう姿にたまらなく好感持てます。

夏美の分かりやすいキャラ、アグレッシブさも素敵。
アクションとしての面白さ、楽しさを提供したのも大きいと思います。

陽菜については…単純に可愛いというのもありますが、やはりラブホの夜の落ち込んだ感じ(そしてエロス)がいい。
そして何より、指をすり抜けていく指輪に号泣するところがホントに切なくて、これは涙がにじみました。

帆高は実にエロゲの主人公というかw
まず、泣き方が素晴らしい。絵としての説得力もさることながら、嗚咽の声が真に迫るものがあります。
そして何より…男の子が女の子のために全力で走る、っていうのがホントにホントに大好きで。
周りの目を気にせず、最短距離をひたすら走り、そして手段も選ばず駆け抜けていく…理想的な主人公。

全体を通して、少年少女が「既存の常識」に一生懸命歯向かう構図に、あぁ…素晴らしいなと思えました。
こういうのが見たかったんだな、私。


あと何気に、最後の二人に身長差があったのが美味しい。
是非、帆高と陽菜は秘密の共有者として幸せにやってってほしいです。
……あのシーンで陽菜が「……もう彼氏いるから」とか言い出さなくてホントよかった、と思いながら見てましたがw

 

いやほんと、ひっさびさに素晴らしい映画を観ました。最高。

…ていうか、ふっつーに可愛い娘と逃避行、とかロマンだよね。